ダメ社会人のダメじゃないかもしれない毎日

日々の楽しいことだったりいろんなことを記事にするよ!!

ダメ学生名作を読む 『騙し絵の牙』 作 塩田 武士 モデル 大泉 洋

 

あてがき。これはもっぱら舞台で使われる用語で、作家が俳優に対して、「この人ならこういう動きをするだろう」とその人物ありきのセリフや行動を描くことを指します。

 

そんな技法を使って創り上げられた作品がこの『騙し絵の牙』です。

 

騙し絵の牙

騙し絵の牙

 

 モデルはあの大泉洋さん。ご存知!大泉洋さんなわけですね。僕としてはこの時点で買うことは確実でしたし、雑誌『ダ・ヴィンチ』で連載されていた頃は恥ずかしながら読んでいなかったのですが単行本化の際の評判の高さからもそのクオリティが伺えました。

 

ある雑誌の編集長である主人公「速水輝也」が自分の雑誌が廃刊に追い込まれていった時、主人公がとてつもない執念を発揮し、出版業界へ一石を投じるー。といったストーリーになっています。

物語の開始時点から軽妙な台詞回しをし、溢れんばかりの愛着をもつ主人公に登場人物だけではなく、読者も惹かれていきます。会社という組織の派閥争いに巻き込まれ、雑誌の売り上げを死守し、若手の才能を見つけ育て、大御所作家との困難極まる商談も彼は自分が愛している「小説」、それが日の目を見る場所として自分の雑誌「トリニティ」を守るために奔走するのです。しかし、それにより、家庭内で徐々に居場所を失っていく。そんな姿は描写が一歩間違えば「面白みのない機械人間のような主人公」と評されてしまいそうですが、そうならないのはやはり先述した主人公の人間性に加え、その主人公の奥に透けて見える「大泉洋」がいるからでしょうか。

 

あの名番組「水曜どうでしょう」でもそうですが僕たちは大泉さんが困れば困るほど、困難に陥入れば陥るほど面白みを感じるのです。そういった下地すらもこの作品ではきっちりと生かされている。それは丹念な大泉洋さんと作者との間のコミニュケーションの賜物でしょうか。

 

そして物語は終盤も終盤。ほんの数十ページで思わぬ展開を見せていきます。帯のコメントにもあるように、僕たちは速水輝也ではなくその母体、人物像として創り上げてきていた一種の大泉洋像に騙されるのです。

 

けしてこの小説の中だけの話ではない、出版業界の不況。電子サービスでもたらされる新たなスピーディーなメディアの形。それは顧客の奪い合いだけではなく時間の奪い合いでした。手に取っているこの本もそんな戦場でたくさんの才能が激しくその炎を燃やした結果だということを改めて感じさせられました。

 

そして組織という集団の気持ちの悪さ、あくどいドロドロしたところ、そしてそこに所属する個人のドロドロ、いわばそのドロドロが練り固まったものが会社だとでも言わんばかりの生々しさが伝わってくるこの切迫感に読む手が止まりませんでした。

 

この本を読むと誰もが心に眠らせている創作意欲がゆっくりと頭をもたげてくると思います。